先月から約1か月半にわたって韓国で開催された『League of Legends(以下LoL)』の世界大会『Worlds 2023』。開幕直後の10月11日に行なわれた「Play-In」ステージは『LJL』のアシスタントMC・清川麗奈さんによる日本代表の現地応援体験をもとにレポートしたが、今回11月19日に開催された「Finals」は筆者の目線でレポートしていこうと思う。
筆者はちょうど5年前に、同じく韓国で開催された『Worlds 2018』を現地取材した経験があるのだが、当時は韓国チームが決勝に上がれなかったこともあり、応援も控え目な印象だった。それに対し今回は、待望の韓国チーム・T1が決勝進出を果たしたことで、やはり盛り上がりが桁違いであった。自国開催に沸いた現地の様子をたっぷりとお伝えしていきたい。
【画像】NewJeansがオープニングアクトを務め、『Worlds 2023』のアンセム曲「GODS」を披露した
■光化門広場で開催された大規模な催し『FAN FEST』
その前に、まずは11月16日から4日間、ソウル市・光化門(クァンファムン)広場にて開催されていた『FAN FEST』について触れないわけにはいかない。有名な観光地である光化門広場には、Finalsに関連した展示ブースが大々的に設置され、「Finals」の会場からは電車で40分ほど離れた場所にもかかわらず多くの『LoL』ファンが会場を訪れた。ミニステージでは連日インフルエンサーによるトークショーが行なわれ、「Finals」前日の18日にはメインステージにてコンサートが開催。過去の「Worlds」に関連したさまざまな楽曲が披露され、韓国はもちろん世界中から集まった大勢の『LoL』ファンの郷愁を誘った。
イベントを会場の隅から隅まで全部楽しもうと思ったら半日はかかりそうな大規模な催しとなっており、韓国における『LoL』の人気ぶりをあらためて実感した瞬間でもあった。Riot Store前で偶然日本のストリーマー組(Obo氏、k4sen氏、SHAKA氏)と遭遇したり、ノルウェーのアーティスト・Alan Walker氏の公演があったりと、非常に盛り上がっていた。
「Finals」がおこなわれたのはソウル市・九老(クロ)区に位置する「高尺(コチョク)スカイドーム」。韓国初のドーム球場で、K-POPアーティストのコンサートなどでも使用されている。現地メディアによると、用意されていた1万8千席分のFinals観戦チケットはおよそ20分で完売したという。チケットを手に入れられなかったファンは、先に紹介した『FAN FEST』会場で実施されたパブリックビューイングに足を運んだようだ。その数は2万人を超えるとされ、現地会場よりも多い人数に。Finalsの現地観戦に対する期待度の高さと、どれだけ狭き門であったことがうかがえる。
実際にFinalsの会場を訪れて感じたのは、「思ったよりもこじんまりしている」ということ。5年前に取材した『Worlds 2018』の会場は仁川(インチョン)の「文鶴(ムナク)競技場」という郊外に位置する大変広い場所だったので、会場内にもさまざまなブースが設置されていた。今回『FAN FEST』が別会場でおこなわれていたのは、こういった事情があったからなのかもしれない。
また「Worlds」と言えば、豪華なオープニングセレモニーが試合前の目玉となっている。とくに今回はK-POPの人気ガールズグループ「NewJeans」が登場し、注目を集めた。とは言えやはりここは「Worlds」の会場。彼女たちによる楽曲「GODS」のクライマックスあたりで選手たちが登場するや、会場は鳥肌が立つほどの大歓声に包まれた。
■決勝のカードは中国・Weibo Gamingと韓国・T1の頂上決戦
今回、Finalsに勝ち上がってきたのは韓国チームの「T1」と中国チームの「Weibo Gaming(以下WBG)」。ベスト8で韓国チームが軒並み敗退し、ベスト4に残ったのは中国3チームと韓国1チームとなった。「T1」は韓国最後の“希望の星”として自国ファンの応援を一身に受け、その期待に応えるかのようにその強さを見せつけた。
1戦目は中盤までゴールド差がつかない試合展開だったが、後半の集団戦フェーズでT1の上手さが光る。ドラゴンソウルとバロンを畳みかけるように獲得したT1は、その勢いのまま相手ベースになだれ込み、あっという間に勝利した。
2戦目も中盤までは五分五分の戦いに見えたが、集団戦での細やかな動きをきっかけにT1が徐々に有利を重ねていく。結局、Topレーナー・Zeusが操るグウェンを誰も止められず、そのままゲームエンドとなった。3戦目、後がなくなったWBGは序盤に積極的な動きを見せる。しかしドラゴンのコントロールを中心に、T1が丁寧に体制を整えていくと天秤がどんどん傾いていく。最終的にT1が3-0で完封勝利、『Worlds 2023』優勝を手にした。
そもそもベスト4で、優勝候補の一角であった中国チーム・JDGをT1が破った時点で大方の優勝予想はT1とされていた。しかし「Worlds」では何が起こるか分からない。WBGが波乱を巻き起こす可能性も否定できなかったのだが、結局は下馬評どおりの結果となった。
それでも、現地の盛り上がりはすごかった。ここまで圧倒的なパフォーマンスを見せたこと、しかもそれが「T1」だったからこそというべきか。文章では表現しきれないほどに、「T1」が登場した瞬間の“熱量”はすさまじかった。好プレイを見せるたびに上がっていく観客のボルテージはすさまじいものがあった。eスポーツにおける現地観戦の醍醐味は、やはりこの空気感であると再確認する瞬間だ。
■世界で一番有名なeスポーツ選手? 『LoL』のレジェンド・Fakerの軌跡
Bo5の大会でセットスコア3-0という一方的な試合展開は、往々にして盛り上がりに欠けやすい。そんななかで今回、これだけの白熱ぶりを見せたのは、やはり「T1」不動のキャプテンであり、スーパースター・Faker選手の存在が大きいだろう。「生ける伝説」とも評される彼が母国・韓国で優勝することを待ち望んでいたファンが大勢いるのだ。
Faker選手は2013年にプロゲーマーとしてデビュー。今年10周年を迎えたベテラン選手であるにもかかわらず、第一線で活躍し続けているレジェンドだ。世界大会の優勝経験は今回を含め4回目、韓国国内リーグ・LCKの優勝経験数は10回にものぼり、最多試合出場や最多勝利など数々の記録を保持している。
実績だけを見ても韓国eスポーツ史上最高の選手であることはお分かりいただけるかと思うが、この選手がスター選手たる所以はそれだけではない。中国チームからの高額オファーすら断り、キャリアをスタートさせた「T1」を愛し続けるその姿勢に魅了されたファンも多い。2020年からは「T1」の共同オーナー契約を結び、引退後も役員として経営に携わることが発表されており、T1の顔役といっても差し支えないほどに支持を集めている。
またFaker選手といえば品行方正な言動と、謙虚な姿勢を崩さないことでも有名だ。世界中のファンのみならず、多くのプロゲーマーからも「見習うべき手本」として尊敬されてきた。Faker選手の伝説や功績を挙げはじめれば、それだけで記事1本分になってしまいそうなので割愛するが、試合終了後に行われた優勝インタビューでも、「今後もたくさん学んで成長していきたい」と世界一になった直後にもかかわらず謙虚な姿勢を崩さなかった。このエピソードだけでも、十分に彼の人となりがご理解いただけるのではないだろうか。
■韓国eスポーツの「いま」の熱量を感じて
今回、試合以外の面でおどろいたのは、日本から3名のストリーマー(SHAKA氏、k4sen氏、Obo氏)が招待され、現地からのウォッチパーティを実施したことだ。韓国と日本が地理的に近いことも関係しているのかもしれないが、とは言え『LoL』の競技シーンにおいて日本のプロリーグ『LJL』はマイナーリージョンという立ち位置である。それにもかかわらず、現地でのウォッチパーティが実現していること。これは日本のストリーマー文化の影響力の大きさを物語っているのではないだろうか。そして、その通りに彼らを通じて、多くの日本人に韓国eスポーツの盛り上がりぶりが伝わったに違いない。
また、何人か日本のインフルエンサーの方々も会場を訪れていた。筆者も長年eスポーツシーンに携わっている者として、実況解説やストリーマー、タレントとして活躍する方々の『LoL』への愛情の深さが垣間見えるたびに勝手に親近感を持ってしまう。機会があれば、彼らの感じた韓国eスポーツについても話を聞いてみたいものだ。
そして筆者もあらためて、今回の「Finals」を通じて韓国におけるeスポーツの「いま」の熱量を感じることができた。それは会場の熱気にとどまらず、国全体にまで影響を及ぼしていた。なんと「Finals」の翌日に、韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領が「T1」に向けた祝福メッセージを発表したのである。コメントには出場した5名の選手の本名とともに、「今回の優勝で韓国の名声を世界に知らしめ、国民や世界の人々へ大きな楽しみと感動を与えた」と記されていた。
取材を通して長年韓国のeスポーツシーンを見てきたが、時代が移り変わりゲームタイトルや活躍する選手が変わっても、eスポーツファンの熱量や盛り上がりは変わらない。それどころか、世界中を虜にしてさらに大きなセンセーションを巻き起こしてすらいる。この世界最高峰の大会を現地で観戦できたことに感謝しつつ、会場レポートを締めくくりたい。
(取材・文=スイニャン)
(出典 news.nicovideo.jp)
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